近日上映予定
戦後映画史を生きる 柳澤寿男監督特集
2018/02/03 ~ 2018/02/16
●劇映画から記録映画、PR映画から社会福祉映画へ、そして…
柳澤寿男(1916〜1999)
松竹京都撮影所に入社し劇映画『安來ばやし』(1940)で監督デビューしたが、亀井文夫の『小林一茶』(1941)に感銘を受け記録映画に転向。戦後から高度成長期にかけ日本映画社や岩波映画などで多くの記録映画・PR映画を演出した。
晩年に企業宣伝の仕事を辞め、『夜明け前の子どもたち』から『風とゆききし』までの「福祉映画5部作」の自主製作を始めた。障害者を通して人間が自由に生きることとは何かを問う作品群は、山形国際ドキュメンタリー映画祭などで高い評価を受け、今も観客に感動を与え続けている。看護婦をテーマとした『ナース・キャップ』に取り組んでいた最中の1999年6月16日、83歳で急逝した。
小川紳介、土本典昭と並ぶドキュメンタリーの巨匠として知る人ぞ知る柳澤だが、その業績は正当に評価されてこなかった。松竹の監督として出発した柳澤は、『どこかで春が』などのフィクションだけでなく、記録映画やPR映画、自主製作福祉映画でもスタジオで培った演出技法を手放すことはなかった。それらの作品群には日本映画の戦後史がそのまま詰まっているのであり、その意味でも柳澤を単なる企業PR映画の監督あるいはドキュメンタリーの監督と定義することはできない。
本特集では現時点で上映可能な作品を網羅。あらゆる手法やスタイルが同居する重層的な映画作家・柳男の全貌に迫る!
※『おばあさん学級』は16mm上映
※作品解説は長編→中編→短編の順に年代順で記載
<短編集>
A=『海に生きる 遠洋底曳漁船の記録』+『新風土記 北陸』
B=『私たちの新聞』+『若い村』+『野を越え山を越え』
C=『ぷらすちっく』+『炭坑』+『キャメラ探訪 都会の裏側』
D=『東海の民芸を訪ねて 第一部』+『富士山頂観測所』+『おばあさん学級』
E=『東京裁判 第三輯 真珠湾奇襲』+『ビール誕生』+『室町美術』
F=『飛騨のかな山』+『ロダン』+『産業と電力』
上映予定作品一覧(全23本)
『ぼくのなかの夜と朝』
『甘えることは許されない』
『そっちやない、こっちや コミュニティケアへの道』
『風とゆききし』
『どこかで春が』
『東京裁判 第三輯 真珠湾奇襲』
『炭坑』
『若い村』
『富士山頂観測所』
『海に生きる 遠洋底曳漁船の記録』
『飛騨のかな山』
『私たちの新聞』
『キャメラ探訪 都会の裏側』
『産業と電力』
『新風土記 北陸』
『ビール誕生』
『室町美術』
『野を越え山を越え』
『東海の民芸を訪ねて 第一部』
『おばあさん学級』
『ぷらすちっく』
『ロダン』
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『夜明け前の子どもたち(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1968年
監督:柳澤寿男
1963年に開設された滋賀県の重症心身障害児療育施設「びわこ学園」の子どもたちと職員たちの記録。単なる医療でもなく単なる教育でもない“療育”の試みの貴重な記録であり、障害者の記録映画に取り組んだ柳澤の原点。職員やボランティアと一緒にプールを作る過程で少しずつ変わっていく子どもたちの姿が生き生きと描かれる。
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『ぼくのなかの夜と朝(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1971年
監督:柳澤寿男
進行性筋萎縮症(筋ジストロフィー)治療に最も早く取り組んだ仙台市西多賀病院で生活する130人の子どもたちの3年間を追った記録で、子どもたちの詩とともに、不治の病に冒された人間の生きる意味や学ぶ意味を問う。本作を作るにあたり、厚生省や企業からの製作費拠出を断られた柳澤は、同窓会や教会など様々な名簿を集め、55,000通もの手書きの趣意書を郵送、3年間で2,500万円を集めた。
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『甘えることは許されない(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1975年
監督:柳澤寿男
障害者が働きながら学ぶ仙台市の西多賀ワークキャンパスに2年間密着、車椅子や松葉杖の人たちが働くことに生き甲斐を見いだす姿を通して労働の本質に迫った。労働力不足解消のため自治体と企業が福祉工場を建て障害者を働かせるというあり方、自治体による障害者の要望の無視など、様々な問題点もあぶりだされる。
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『そっちやない、こっちや コミュニティケアへの道(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1982年
監督:柳澤寿男
愛知県知多市の療育グループの2年間の記録で、障害者にとってのコミュニティ・ケア=地域福祉とは何かを考える。新しい共同作業所「ポパイノイエ」を作るにあたり、障害者自らが設計図から改装作業まで参加し、初めての月給を分配するまでを丁寧に追う。当事者の自発的意思を尊重することでしか福祉は実現しないことを力強く表現した一作。
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『風とゆききし(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1989年
監督:柳澤寿男
970年代にリサイクルと在宅福祉をドッキングさせた障害者福祉運動を始め、その後「いきいき牧場」を開設した盛岡市民福祉バンクの活動を4年間追った作品。障害者と健常者がともに生き生きと暮らす共和国の実現を夢見た柳澤だったが、障害者の意見に耳を貸さない職員とボランティアに幻滅、組織が作り出す支配関係や権力の腐敗などに直面した。
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『どこかで春が(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1958年
監督:演出:柳澤寿男
出演:今村正一、市口淑子、真砂純忠、新居忠、東野久雄、小林一三、林慶子、山下芳隆、森田幸男、谷川重子、炭野富昭、田中照美、武田篤子、筒井稜子、白江英生、坂田匡、藤川昌男、佐藤一男、石川比奈/協力出演:アカデミー児童劇団、関西芸術座、大阪あすなろ会
家庭の事情でグレた少年と貧しくても懸命に頑張る少女を軸に、中学の演劇部員が友情を築いていく姿を実話に基づいて描く。戦後の混乱が残る昭和30年代大阪の風景や会話が懐かしい。大阪府教組のバックアップがあったにも関わらず膨大なフィルム代の資金繰りに四苦八苦したという。
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『東京裁判 第三輯 真珠湾奇襲(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1946年
監督:編集:柳澤寿男
出演:ウェブ裁判長、検事たち、野村大使、永野元軍司令部総長、リチャードソン米提督、バランタイン国務省顧問、元逓信省白尾干城「日本ニュース」の東京裁判関連フィルムを編集して製作した記録映画デビュー作品。被告たちの証言や開戦当時の映像で綴った真珠湾奇襲の記録。
©TOHO CO.LTD.
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『炭坑(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1947年
監督:伊藤壽恵男、柳澤寿男
北海道美唄炭鉱に長期ロケを行った記録映画。当時、戦後復興のため政府が重要産業とみなしていたのが石炭産業で、炭鉱国家管理法案審議中の衆議院で議員全員が鑑賞した。
©TOHO CO.LTD.
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『若い村(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1948年
監督:柳澤寿男
群馬県の農林省指定電化村・多々良村澱粉工場を見学したある農民が、自らの村の総合電化を提案する。農林省による広報映画の第一作。
©TOHO CO.LTD.
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『富士山頂観測所(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1948年
監督:柳澤寿男
撮影隊が富士山頂観測所に3ヶ月滞在、零下30度の山頂で雪や霧氷と戦いながら観測を続ける隊員の苦闘を記録した。おしつけや教訓でない映画作りを目指した柳澤による傑作。
©TOHO CO.LTD.
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『海に生きる 遠洋底曳漁船の記録(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1949年
遠洋底曳漁船の乗組員の生活を描いた海員組合製作による記録映画。チャーター船に乗り込んで漁船を撮影した迫力ある映像が話題となり、労働組合が製作した映画としても画期的。
©TOHO CO.LTD.
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『飛騨のかな山(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1949年
監督:柳澤寿男
鉱山で働く人々の労働と生活を記録した飛騨神岡鉱業のPR映画。6年後に神通川イタイイタイ病が明らかになり、原因企業の宣伝映画を作ったことで過ちを犯したと柳澤が述べている。
©TOHO CO.LTD.
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『私たちの新聞(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1950年
監督:柳澤寿男
ある小学校で子どもたちが学校新聞を作りあげるありのままの記録から、学校新聞の役割とあるべき姿を示す。
©TOHO CO.LTD.
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『キャメラ探訪 都会の裏側(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1950年
監督:衣笠十四三(第1話)、柳澤寿男(第2話)、道林一郎(第3話)
夜の都会で繰り広げられる事件を描いたオムニバス劇映画。柳澤が担当した第2話は、スリ、被害者、ストリップショーの女をめぐるショートコメディ。
©TOHO CO.LTD.
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『産業と電力(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1953年
監督:柳澤寿男
毎年冬になると起こる電力不足と繰り返される停電、その原因はどこにあるのか。社会の血液ともいうべき電力事情を探る。
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『新風土記 北陸(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1953年
監督:柳澤寿男、竹内信次
きびしい自然に囲まれながらも古くからの文化が生き続けている北陸の城下町の様子、そして豊富な水資源の活用と近代化された産業への移行を風土記的に描く。
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『ビール誕生(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1954年
監督:柳澤寿男
麦とホップの花と酵母の作用によりビールとなる迄の過程を記録したカラー作品。東京ではジョージ・キューカー『スタア誕生』の併映作としてロードショー上映された。東京シネマが記念すべき第一作の演出に企業PR映画のホープ・柳澤を招いた傑作。
©東京シネマ新社
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『室町美術(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1954年
監督:柳澤寿男
民衆の生活の反映としての狂言、書画や庭園などの禅芸術など、日本独自の文化が花開いた室町時代の芸術を描く。
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『野を越え山を越え(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1955年
監督:柳澤寿男
冬は家族を残して山にこもり送電線の保守を行う発電所職員の暮らしを、子どもの目から詩情豊かに描いた傑作。四季にわたる取材と大規模なロケーション撮影が高く評価された。
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『東海の民芸を訪ねて 第一部(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1958年
監督:柳澤寿男
夏休み中に東海の民芸を研究しようとする二人の大学生が、津の観海流、岐阜の鵜飼、名古屋の七宝焼などを訪れる様子を通して、民間伝承の技芸の素晴らしさに迫る。
©TOHO CO.LTD.
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『おばあさん学級(16mm)』
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上映スケジュール
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公開:1959年
監督:柳澤寿男
年寄りは世の中の余計者だという考えをおばあさんと嫁とがお互いに克服し、おばあさん学級が生れるまでを描く社会教育映画。
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『ぷらすちっく(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1961年
監督:柳澤寿男
日本ではじめてプラスチックの加工と企業化に成功した積水化学にカメラが潜入。プラスチック産業の現状と未来を探る。
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『ロダン(デジタル)』
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上映スケジュール
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公開:1962年
監督:柳澤寿男
近代彫刻の偉大な開拓者であり確立者であるロダンの代表的作品をとおして、ロダンの芸術の素晴らしさを伝える。
©TOHO CO.LTD.
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