近日上映予定
知られざるサッシャ・ギトリの世界へ Bonjour, monsieur Sacha Guitry
2023/03/11 ~ 2023/03/24
サッシャ・ギトリ (1885 - 1957)
1885年、大物舞台俳優リュシアン・ギトリの息子としてサンクト・ペテルブルクで生まれる。1905年以降、戯曲家の道を歩み始め、演出、主演もこなす作家スタイルを確立。1915年映画第一作となる『祖国の人々』を発表するも、真に映画を撮り始めるのはトーキー以後、1935年『パストゥール』からである。1936年『とらんぷ譚』で自ら第一人称の語り手としてほぼ全ての映像をナレーションで語り尽くすという前代未聞の手法で、同時代の映画人に衝撃を与える(オーソン・ウェルズの『市民ケーン』が本作の影響下で作られたことは有名だ)。
1944年8月パリ解放直後、対独協力者の嫌疑がかけられ、60日間の拘留を含め、1947年免訴に至るまでの3年間、表舞台での活動の停止を余儀なくされる。この苦い体験によってギトリの人間観察にすごみが加わり、逆説的であるが、戦後の一連の傑作『毒薬』、『ある正直者の人生』などが生まれる。生涯、5回の結婚をしており、当時の妻はギトリ作品のミューズでもあった。自ら執筆・演出・主演を務めた戯曲は130本、30本以上の映画作品を残す。フランソワ・トリュフォー、オーソン・ウェルズ、アラン・レネらに熱狂的に支持され、それ以降もジャン・ユスターシュ、レオス・カラックス、オリヴィエ・アサイヤス、クエンティン・タランティーノら世界の映画人に愛され、影響を与えてきたギトリ、その映画的卓越性を見直す機運は年々高まっている。
「受話器があればそれを握っただけで男の色気を漂わせ、いったん女性と向かい合うと、小津に劣らぬ大胆な意図的つなぎ間違いで見るものを魅了するギトリは、文字通りコメディーの王様である。必見!」
-蓮實重彦
「ギトリは(ジャン・ルノワールと並んで)最も偉大なフランス映画作家だ。」
―オリヴィエ・アサイヤス
※プロフィール・解説執筆:坂本安美(アンスティチュ・フランセ日本 映画プログラム主任)、黒岩幹子(編集者)
上映予定作品一覧(全14本)
『幸運を!』
『新しい遺言』
『とらんぷ譚』
『夢を見ましょう』
『王冠の真珠』
『デジレ』
『カドリーユ』
『シャンゼリゼをさかのぼろう』
『彼らは9人の独身男だった』
『あなたの目になりたい』
『役者』
『二羽の鳩』
『毒薬』
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『祖国の人々 Ceux de chez nous(45分+20分(解説付)/デジタル)』
- 上映スケジュール
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公開:1914年
監督:サッシャ・ギトリ
出演:オーギュスト・ロダン、エドモン・ロスタン、クロード・モネ、アナトール・フランス、エドガー・ドガ、サラ・ベルナール、カミーユ・サン=サーンス、オーギュスト・ルノワール
「傑出したフランス人芸術家を集め、その仕事中の姿をとらえた」ギトリ映画第1作目はサイレントながら1915年の初上映時からギトリがライブで語る“トーキー”であり、今回上映される1952年制作の最終版まで、長い年月をかけてギトリが被写体と対話し続けてきた希有な作品。自然光のみで撮影、息子ジャンに支えられて絵を描くルノワールの逆光の中に浮かぶシルエットなど、心揺さぶられる瞬間に満ちている。
※本編上映前に坂本安美さんによる20分間の解説付き
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『幸運を! Bonne chance!(77分/デジタル)』
- 上映スケジュール
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公開:1935年
監督:サッシャ・ギトリ
出演:サッシャ・ギトリ、ジャクリーヌ・ドゥリュバック、ポーリーヌ・カルトン、ポール・デュラック、アンドレ・ニュメス・フィス、ロベール・セレル
「幸運を!」その言葉がまさに幸運を呼び、洗濯屋の娘マリィと画家クロードは宝くじの賞金で豪勢な旅行に出ることに。ギトリ初の映画オリジナル脚本によるロマンティック・コメディ。ドキュメンタリー的屋外シーンや、『勝手にしやがれ』を思わせもする車のシーンなど、実験精神と映画作りの幸福に満ち、何よりもドゥリュバックとギトリとの息のあった掛け合いは見事で、ホークスのスクリューボールコメディを先取りしているとさえ言えるだろう。
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『新しい遺言 Le Nouveau Testament(99分/デジタル)』
- 上映スケジュール
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公開:1936年
監督:サッシャ・ギトリ
出演:サッシャ・ギトリ、ジャクリーヌ・ドゥリュバック、ベティ・ドースモン、マルグリット・タンレー、ルイ・ケルリー
姦通や、夫婦間や社会的偽善のバリエーション、近親相姦の可能性を秘める父性の曖昧さ、『デジレ』をすでに予感させる領分を超えていく主従関係など、ギトリ的テーマが勢揃いしている本作だが、驚くべきはギトリ演じる医師の微妙にオフビートな描写だ。最初は傷つきもせよ、明晰で、遊び心を持ち続ける俳優=登場人物が「演出」によって解決策を見出していくのをとくとご覧下され。
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『とらんぷ譚 Le Roman d'un tricheur(81分/デジタル)』
- 上映スケジュール
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公開:1936年
監督:サッシャ・ギトリ
出演:サッシャ・ギトリ、マルグリット・モレノ、ジャクリーヌ・ドゥリュバック、ロジェ・デュシェーヌ、ロジーヌ・ドゥレアンほか
約50年に渡る「あるペテン師の回想」(原題)が、カフェのテラスでその一代記を執筆する主人公=ギトリのナレーションによって語られる。声の作家ともいえるギトリが、過去の物語である「回想」をその主人公を演じる自身の現在の声で語るという手法によって、重層的な話法を生み出し、かつてない一人称の映画に昇華させた記念碑的作品。
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『夢を見ましょう Faisons un rêve...(80分/デジタル)』
- 上映スケジュール
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公開:1936年
監督:サッシャ・ギトリ
出演:サッシャ・ギトリ、レミュ、ジャクリーヌ・ドゥリュバック、マルセル・レヴェック、マルグリット・モレノ
舞台でも何度も上演されているギトリの代表的な戯曲を自身で映画化した作品。主人公の独身男性が人妻と浮気をするというよくある姦通物の一篇だが、自宅に呼び寄せた人妻の到着を待ちわびる主人公=ギトリの15分以上に及ぶモノローグのシーン、その情景を喚起させる言葉と声の力が本作を類まれなる作品にしている。
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『王冠の真珠 Les Perles de la couronne(105分/デジタル)』
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公開:1937年
監督:サッシャ・ギトリ
出演:サッシャ・ギトリ、ジャクリーヌ・ドゥリュバック、リン・ハーディング、ルネ・サン=シール、エンリコ・グロリ、レミュ、ジャン=ルイ・バロー
16世紀から現在まで、7カ国を股にかけて持ち主を次々と変えていく真珠たちの「数奇な運命」が、フランスの歴史家、英王室副官、ローマ法王庁の侍従ら三人によって語られていく。ギトリの初の歴史もので公開時記録的ロングランとなった。「そのイントネーションにこそ、役者の価値がある」としたギトリは、それぞれに母国語を話させ、会話を成立させている(アルレッティとダリオの間で交わされる奇妙な、架空の言語まで!)。
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『デジレ Désiré(94分/デジタル)』
- 上映スケジュール
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公開:1937年
監督:サッシャ・ギトリ
出演:サッシャ・ギトリ、ジャクリーヌ・ドゥリュバック、ジャック・ボーメル、アルレッティ、ポーリーヌ・カルトン、サチュルナン・ファーブル、アリス・ドロンド、ジュヌヴィエーヴ・ヴィクス
忠実で優秀な召使のデジレは郵政大臣の恋人オデットに仕えることになるが、毎晩のように女主人の夢を見るようになる。実はオデットも同じ夢を見ていて……。軽快なコメディでありながら、自分が仕える女主人を愛してしまうデジレの姿を通して、女性を装飾品のように扱う男性上位社会を糾弾する作品でもある。
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『カドリーユ Quadrille(91分/デジタル)』
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公開:1937年
監督:サッシャ・ギトリ
出演:サッシャ・ギトリ、ギャビー・モルレー、ジャクリーヌ・ドゥリュバック、ジョルジュ・グレー、ポーリーヌ・カルトン
4人の男女による恋の駆け引きが描かれる。物語の主題としては『夢を見ましょう』と類似するものの、男女がパートナーを入れ替えながら踊るスクエアダンスの名称である題名のとおり、主要キャストの4人は決して一同に介することはなく、相手を入れ替えながらの会話劇がリズミカルに展開されていく。
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『シャンゼリゼをさかのぼろう Remontons les Champs-Élysées(102分/デジタル)』
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公開:1938年
監督:サッシャ・ギトリ
出演:サッシャ・ギトリ、リュシアン・バルー、ジャン・ペリエ、ジャクリーヌ・ドゥリュバック、ジャンヌ・マルケン、ミラ・パレリ
子供たちを前にしてギトリ演じる教師が語る、「シャンゼリゼを知っているかね。よろしい。でも君たちはその物語を知っているかい。それはフランスの物語だ」。そうして映画はこの大通りをコンコルド広場からエトワール広場まで文字通り遡り、時も1617年まで遡っていく。オリジナル・シナリオによる本作でフラッシュバックや実景など映画的技法を援用し、ギトリは彼の物語=歴史と都市への愛を語っていく。
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『彼らは9人の独身男だった Ils étaient neuf célibataires(125分/デジタル)』
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公開:1939年
監督:サッシャ・ギトリ
出演:サッシャ・ギトリ、エルヴィール・ポペスコ、マックス・デアリー、サチュルナン・ファーブル、ジャン・シノエル、ジュヌヴィエーヴ・ギトリ
不法滞在の外国人を国外追放する政令が発布されるという噂が流れ、フランスに留まるためにフランス人との結婚を望む女性たちに偽装結婚の相手を世話すべく、ギトリ演じる正体不明の実業家は「独身フランス人男性の老人ホーム」を設立する。そこに集まる浮浪者たちを演じるのは戦前のフランス映画を支えた名脇役たちで、ギトリはひとりひとりに見せ場を作り、それぞれの魅力や個性を引き出している。
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『あなたの目になりたい Donne-moi tes yeux(90分/デジタル)』
- 上映スケジュール
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公開:1943年
監督:サッシャ・ギトリ
出演:サッシャ・ギトリ、ジュヌヴィエーヴ・ギトリ、エメ・クラリオン、マルグリット・モレノ、マルグリット・ピエリー
彫刻家の男性とモデルの女性によるラブストーリー。諧謔に満ちたコメディから始まり、徐々に画面が陰りを帯び、後半、メロドラマへと変調していく。題名が示すとおり愛する者を見つめる目とその行為が物語の主題となっており、夜間に灯火管制が布かれたドイツ占領下のパリが舞台となっていることもその主題と密接に結びついている。トリュフォーは本作だけが「灯火管制の現実を忠実に理解できる」作品だと評した。
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『役者 Le Comédien(92分/デジタル)』
- 上映スケジュール
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公開:1947年
監督:サッシャ・ギトリ
出演:サッシャ・ギトリ、ラナ・マルコーニ、ジャック・ボーメル、ポーリーヌ・カルトン、ロベール・セレル、ジョゼ・ノゲロ、モーリス・テナック
著名な俳優であった父リュシアン・ギトリの伝記であり、さまざまな役を演じ続ける父を自ら演じ、また自分自身をも演じるサッシャの身体を通して、現実とフィクションが、あるいはフィクションとフィクションが重層化していく。「舞台の上にしか私生活も実人生も存在しない」というギトリ流の美しい真実が示されると同時に、俳優という存在自体の神話性が剥ぎ取られる瞬間も…。
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『二羽の鳩 Aux deux colombes(89分/デジタル)』
- 上映スケジュール
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公開:1949年
監督:サッシャ・ギトリ
出演:サッシャ・ギトリ、シュザンヌ・ダンテス、マルグリット・ピエリー、ラナ・マルコーニ、ポーリーヌ・カルトン、ロベール・セレル
ある日、妻と暮らす男の家に22年前に渡航先で消息を絶った前妻が現れる。実は二人は姉妹で……。妻の座をめぐるその諍いの場に登場する第三の女を、ギトリの5番目にして最後の妻となるラナ・マルコーニが演じている。ギトリ映画の常連ロベール・セレルが使用人の役にありつくまでを見せながら、スタッフ・キャストを紹介する冒頭部分の演出の妙が心憎い。
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『毒薬 La poison(85分/デジタル)』
- 上映スケジュール
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公開:1951年
監督:サッシャ・ギトリ
出演:ミシェル・シモン、ジュルメーヌ・ルーヴェール、ジャン・ドビュクール、ジャック・ヴァレンヌ、ジャンヌ・フュジエ=ジル、ポーリーヌ・カルトン、ルイ・ド・フュネス
互いを憎み、殺意を募らせる中年夫婦、あるいは事件が起きて村が有名になることを願う村民たち…。ギトリが名優ミシェル・シモンのために書き上げた脚本で、1シーン1テイク、11日間で撮影、それに応えたシモンはこの登場人物に比類なき強さと表現力の豊かさを与えている。法制度を根底から崩壊させていくラストは圧巻で、ギトリ映画の中でも最も深いアイロニーに彩られたブラック・コメディの傑作。
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